漆という天然塗料

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木になる噺し(ブログ)

日本文化と「漆という天然塗料」と名栗仕上

2020/03/04

みなさま、こんばんは。

職人バッカの千葉です。

 

今日は、漆の話です。

私は、普段から愛用しているコップが、日光の一刀彫りのコップです。

材質は、なつめ材で、拭き漆仕上です。

木器に漆は、落としても安心ですし、少し、漆の塗膜が傷んできても、自分で漆を拭いて、補修をしています。

なつめ材日光一刀彫コーヒーカップ(拭き漆仕上)

「漆」は石器時代からすでに使われていたそうです。

縄文文化財の福井県鳥浜貝塚などいろいろなところから、漆盆や朱漆の木器など発掘されています。

 古来から受け継いだものなのですね。

 

ウルシ科の植物は600種類あるそうです。

しかし、樹液を塗料として使えるのは、「漆」しかないようです。

 

「漆」は日本、朝鮮半島から中国、東南アジアに広く分布していますが、

日本製が一番で、取れた時期は盛夏が最上品質です。

漆器

近年、漆に似せた塗料や、プラスチックでもその仕上感をコピーしたもの生活雑貨が、たくさん出回っています。

その事で、本家の漆の格は上がる一方で、庶民の生活用具から離れています。

高級工芸品に格上げされた様に思います。

嬉しくはあるのですが、生活雑貨として庶民的な方がよく、本当はさみしくもあり、残念です。

 

建築でも、障子などの枠に、漆塗りを施す事があります。

 

設計事務所で下積みをしているとき、図面に「漆枠」を記載した事もあります。

 漆枠は、なかなか高価なものです。

その為、工費調整で、「カシュー塗枠」や「プラスチック枠」になったりします。

漆塗枠

ちなみに、「カシュー」は、カシューナッツの原料ですが、

有機溶剤ですので、本漆と違い、「天然塗料」ではありません。

 

カシュー塗料

しかし、実際漆という塗料を買いに行きますと、思ったより高価ではありません。

調べてみると案外、どこでも入手できるものです。

 

中国産はやっぱり安いのですが、国産品でも、目の玉が飛び出るほどの高価なものではないと思います。

 

漆にも、品質があって、

「瀬〆(せじめ)」

という最後の絞ったもので、品質が良い方ではないので、比較的手ごろに入手できます。

 

日本古来から使用されている天然塗料は共通して言えることですが、「高価なもの」というものはあまりありません。

これは私見ですが、おそらく工芸品の下職人が永遠と使い続けてきた事で、日本文化に浸透しているおかげだと思うのです。

この良き文化を、安直な模造品を使わない事で、本当に残したいと思うのです。

床框(漆塗)

建築には、そのほか、「床框」などにも、漆塗りのものを使いますが、とても高価です。

しかし、やっぱり日本人である為、漆という素晴らしい塗料を使いたいと思っています。

 

また、漆は,「環孔材」(欅や栗)、「放射孔材」(楢や樫)との相性は抜群です。

 

この間、造らせてもらいました山栗の大黒柱のある家があります。

この家の大黒柱に、「拭き漆仕上」を私が施しました。

山栗ですので、漆との相性は「バツグン」です。

山栗の大黒柱(拭き漆仕上)

「漆塗り」は、職歴が30年の建築塗装業の方でも、おそらく一回もない方が大半だと思います。

漆はかぶれます。

一度も塗った事のない方は免疫がない為、かゆくて仕方ありません。

 

ですから、塗装屋さんを探す事をあきらめ、自分で行う様になりました。

手間もかかりますが、

山栗材は、手斧(ちょうな)で仕上げると本当にかっこいいものです。

これを名栗仕上(なぐりしあげ)といいます。

 

また、この名栗った部分に拭き漆で仕上げると本当によく合い、かっこいいものです。

黒漆と栗のペン立て

漆は、有機溶剤ではありえないくらい、本当に「高品質な塗料」です。

耐水性、耐熱性、耐食性、強靭性に優れ、経年変化は、光沢を増します。

 

どんなに塗料メーカーの広告を見ても、他を寄せ付けない独創性があり、私の知っている限りそんな塗料は他にありません。

 

大半の塗料は、乾燥して塗料が乾くので、「乾式」なのですが、漆は、湿度が大事です。

とにかく、湿気がある状態で乾くので「湿式」の乾燥なのです。

 

昔、日本人が、西欧人の船のカピタン(キャプテン)が真鍮製の望遠鏡を持っていたのをみたそうです。

すると、和紙にレンズを入れて、漆で強化したものをコピーしたようです。

 

耐水性に優れ、軽い。

カピタンはそれを見て、船が難破した時、「和製望遠鏡のほうがいい」と思った様です。

おまけに望遠鏡の体には、蒔絵が施されて、たいそうゴージャスに見えたとか。

 

 

この話を読んだ時、漆は、本当に日本文化によく溶け込んだ風景だと、思いました。

 

なんでも、「漆風製品」を価格だけで、購入するのは、やっぱり残念です。

 

建築にもこんな話はたくさんあります。

総工費とにらめっこして、「なんちゃって品」と戦っています。

 

見積を見て、金額が合わないんだったら、

お施主さんと「拭き漆を一緒にやりましょうよ!」

なんて提案したりしています。

 

脱線ですが、漆喰の語源は、「石灰(せっかい)」を唐音読みした「しっくい」であるようです。

漢字は当て字で、うるしには関係ないみたいです。

 

では、本日はこの辺で。

ご拝読有難うございました。

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