一級建築士5 ネグレクト
2024/07/22
ネグレクト
小学生の時、父が厳しく、ほぼ毎日、理由も分からず、殴られていた。
ごはんを食べるのに、読書か宿題をするのが条件だったが、勉強が出来なかった。
机には向かうが、できないので、「ごはん抜き」は茶飯事だった。
殴られ続け、あらゆる事に自信は持てなかった。
自己肯定感はほとんどなく、自尊心など皆無だった。
社会人になって、師匠のいる設計事務所で勤務をしていた時、
「千葉君は建築士を受験しないのか?」と尋ねられた。
「受けても合格しませんよ」と答えた。
「ワハハ」「そりゃそうだ、受けなきゃ合格しない」と言われた。
なんの勉強もしてなかったので、一度目の受験は不合格であった。
「悪いけど、建築士協会にいって来てくれるか?」と聞かれ、
変なカタログを貰ってくるだけの用事であったので、渋々行くこととした。
建築士協会で用事を済ませ、帰る時に合格者の建築士名と生年月日が貼られていた。
個人保護法等ない時代、堂々と名と生年月日が表示されていて、見ると、幾人も同学年生が合格していた。
いままで、何をしていたのかと急に、情けなくなった。
「千葉君は、自身がないんじゃないのか?」と師匠から訊かれた。
「・・・」応えられなかった。
「自信って、勘違いから生まれるんだよ」
「?」
「できないと思っているのも勘違い」「できると思うのも勘違い」
「どうせ勘違いならできるって思ったっていいんじゃない?」
「できると思う勘違いが積み重なれば、自信になるんじゃないの?」
22歳の夏であった。
合格、不合格以前に、バカだと思い込んでいる自分に本当に嫌気がさしていた。
空っぽの自己肯定感を、何でもいいから実のあるもので満たしてみたかった。
考えてみれば、「自信」という言葉は、自らを信じると書くのだから。